このたび、日本電信電話株式会社(以下、NTT、本社:東京都千代田区、代表取締役社長:和田紀夫)、NEC(本社:東京都港区、社長:金杉明信)、古河電気工業株式会社(以下、古河電工、本社:東京都千代田区、社長:石原廣司)、三菱電機株式会社(以下、三菱電機、本社:東京都千代田区、執行役社長:野間口有)の4社は、高度なIPサービス提供用ネットワーク技術として展開が進められているMPLS(MultiProtocol
Label Switching)技術と、次世代の経済的で高速大容量なフォトニックネットワークを構築するための技術として注目されているGMPLS(Generalized
MultiProtocol Label Switching)技術をシームレスに連携させることに世界で初めて成功しました。
本技術により、MPLSを用いた高度なIP網が導入された既存のネットワークに、その構成を変更することなく、次世代の高速大容量かつ柔軟なネットワークのスムーズな導入が可能となります。また、既存のIPサービスに加えて、新たな高速大容量のネットワークサービスの提供が可能となります。
本技術を、10月26日〜28日に米国ワシントンDCで開催される「MPLS2003」で動態展示します。この会議は、VPNサービスなどで利用されているIP網の技術であるMPLSをメインテーマに、世界の通信機器ベンダや通信キャリアが集まり、次世代のデファクト技術の動向について議論する場です。
<背景>
インターネット人口の増大とサービスの多様化に伴い、通信容量は年々倍増しています。加えて、既存のベストエフォート型IP網では扱うことの難しいVoIPや映像配信サービスの利用も増えています。このようなアプリケーションの多様化に対応するために、現状の企業通信網では、専用線に加えて、IP-VPN(仮想私設網)(*1)や広域Ethernetサービスなど、さまざまな通信サービスを利用形態に合わせて使い分けています。このように、これからのネットワークは、大容量であることに加えて、ユーザの要求するさまざまな通信速度や通信品質などに対応し、新たなサービスに柔軟に適応することが求められています。
このようなネットワークを実現するためにMPLS(*2)とGMPLS(*3)という技術が注目されています(図1参照)。MPLSは、IP網の通信品質を制御するための技術です。電話網のような回線という概念を用いることで品質要求の異なるトラヒックを区別して扱うことができます。現在は、インターネットプロバイダのトラヒック管理や、IP-VPNサービスを実現する技術として採用が広まりつつあります。
一方、GMPLSは、次世代ネットワーク網に用いる新たな制御技術です。GMPLSは、IPネットワークでのMPLSの概念を、パケット、TDM(*4)、光波長、光ファイバという複数の異なるレイヤに拡張したものです。デジタル通信ネットワーク(TDMクロスコネクト装置を用いる)や光波長ネットワーク(光クロスコネクト装置を用いる)など、さまざまなレイヤのネットワークでのパス(信号の通る経路)を統一的に制御管理することにより、経済的・高速・大容量のネットワークを実現します。GMPLS技術が実用化すると、これまで別々に構築され、管理方法もまちまちであったIPや光波長のネットワークの管理を統合することができ、運用費用の削減ができます。また、さまざまな光波長パスをユーザの要求に応じて接続先を変更する光波長専用線のような新サービスの提供が可能になります。
既存のIP網の構成を変更することなく、大容量かつ柔軟な次世代ネットワークの導入を簡易に行うためには、MPLSとGMPLSとが連携して動作することが必要です。
図1.次世代ネットワークとサービスのイメージ
<技術のポイント>
今回、GMPLS網のルーティングとシグナリング技術を連携させることにより、MPLS網とGMPLS網という二つのネットワークをシームレスに接続することに成功しました。
図2に動態展示する検証実験の構成を示します。GMPLS網は、NTTのフォトニックMPLSルータ(IP/波長)(*5)、NECのデジタルクロスコネクト(TDM/波長)、古河電工のGMPLSルータ(IP/TDM/波長)、三菱電機の光クロスコネクト(波長/ファイバ)という通信装置の制御部からなります。それぞれの装置の制御部には、複数レイヤの処理が可能な制御ソフトウェアを各社で開発・実装しました。()内は、各社が実装したレイヤを表しています。この装置間では、GMPLSルーティングプロトコル(GMPLS
OSPF-TE)という制御技術を用いて、互いに、どのレイヤで通信可能であるかという情報を知らせあいます(“広告”と言う)。これにより、各通信装置は、他の装置がどのレイヤで通信が可能であるかを認識できます。
図2.PILでの相互接続検証の構成図
GMPLS網では、ルータやクロスコネクトなどさまざまな通信機器が混在するため、各社の開発した通信装置間での相互接続性を確認することが必要です。これまでに、4社は、相互にGMPLSのマルチレイヤのシグナリングを確立しておりました。ここでは、GMPLSシグナリングプロトコル(GMPLS
RSVP-TE)を用いていました。この検証では、ルーティングとシグナリング技術を連携させて動作の検証を行い、各装置間で自律分散的に通信可能かどうかの情報を収集することと、その環境で自由に通信経路を設定することをマルチベンダ環境で実証いたしました。
今回の検証では、上記の接続形態に加え、GMPLS網でのルーティング機能を用いて、MPLSとGMPLSが連携できることを確認しました。図3には、MPLSとGMPLSの連携動作を概念的に示したものです。本技術は、NTTが標準化を提案している技術です。GMPLS網内では、ルーティングでの広告によって、さまざまなレイヤでの接続関係が認識できています。一方、MPLS網では、IPレイヤの情報しか認識できないため、そのままではGMPLSとの連携はできません。これを解決するため、MPLSルータと直接接続されているGMPLSルータ(G1,
G3, G5, G7)では、GMPLS網内で広告されている情報のうちIPレイヤのみの情報をフィルタし、MPLSルータが解釈できる情報のみを広告します。これによりノード間のうちIPレイヤでの接続状態が伝えられ、MPLS網側から見ると、GMPLS網のIP処理のできるノードG1,
G3, G5, G6, G7は、仮想的なMPLSルータとして認識されます。MPLS網と直接接続されているノードだけでなく、GMPLS網内部のノードもMPLS側から利用することができるため、通信経路を最短にしたり、アプリケーションにより経路を区別するなど効率的な運用が可能となります。図2の構成では、NTTと古河電工のGMPLSルータのみがIPレイヤの処理ができるため、MPLSからも仮想的なMPLSルータとして動作します。本技術により、MPLS網が導入されたネットワークに対して、GMPLS網の増設が容易に可能となります。GMPLS網を介してMPLS網間でのルーティング情報が、マルチベンダ環境でも広告できており、本技術の実用性が実証されました。
図3.IP+MPLSとGMPLS 連携動作について
■今後の予定
本検証実験は、次世代フォトニックネットワークの分野で、日本発の世界標準化を推進するために創設したフォトニックインターネットラボ(略称:PIL)(*6)で実施されました。今後、海外企業との接続検証も含めて検討していきます。次世代先端技術および新たなネットワークサービスの研究開発を推進していきます。
<用語解説>
*1) IP-VPN : Internet Protocol based Virtual Private Network の略。IP網上で、仮想私設網(VPN)を提供するサービスです。
*2) MPLS : Multi Protocol Label Switchingの略。IPパケットに固定長のラベルをつけて転送することにより、より単純にパケットを目的地まで転送するためのパケット転送制御方式。ラベルを使ってIPパケットの経路や処理を区別することで、電話網における「回線」の概念を導入することができ、要求される品質に応じたトラヒックの制御を行うことが可能となります。
*3) GMPLS(Generalized Multi-Protocol Label Switching)
IPネットワークにおいて使われているMPLSの考え方を、複数の異なるレイヤに拡張、発展させたプロトコル群。GMPLSは、次世代フォトニックネットワークを制御するプロトコルとして注目されています。このプロトコル群は、IETF(The
Internet Engineering Task Force)などを中心として、標準化が進められており、GMPLSのシグナリングプロトコルの基本機能は、2003年2月に正式な標準仕様案(Proposed
Standard)RFC3471〜3473として認定されています。IETFは、インターネットを構築・運営するために標準化された様々な規格や実現手法の文書を発行する組織です。
*4)TDM (Time Division Multiplexing)
時分割多重方式のこと。SDH/SONETと呼ばれる多重方式が一般的に利用されています。
*5) フォトニックMPLS : 現在のMPLSは、ラベルをIPパケットに付加したり、ATM(非同期転送モード)のパス識別子/チャネル識別子をラベルとして利用しています。フォトニックMPLSは、波長をラベルとして利用するMP?S(MultiProtocol
Lambda switching)技術から、光信号のラベルを光IPパケットに付加するような将来の光IP技術までを網羅するコンセプトです。
*6)フォトニックインターネットラボ
略称:PIL、http//www.pilab.org/。
PILの活動は、総務省戦略的情報通信研究開発制度の国際技術獲得型研究プログラムのサポートを受けて運営されています。PILは、上記4社と株式会社富士通研究所、沖電気工業株式会社、株式会社日立製作所を加えた7社により、2002年9月より活動を開始しています。PILでは、標準化の提案をすると同時に、各社の開発したプロトコルソフトウェアの技術的な検証を行っており、本実験もその一環として実施されたものです。
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